

「うー。寒いなあ」
二月に入ってめっきり寒くなったある日の放課後。
「薔薇の館が校舎とつながってればいいのになあ……」
あまりの寒さに祐巳は薔薇の館に向かいながら思わずそんな情けないことをつぶやいていた。
リリアン高等部で迎える二度目のバレンタイン。
今年も新聞部の企画で「宝探し」をやることになってしまった。
三奈子さまは引退なさったけど、真美さんがちゃんと跡を継いで、今年は去年より大規模なイベントになってしまいそうなのだ。
あまり乗り気じゃなかったけれど、「私たちもやったんですからね」と、薔薇さま達に言われてしまってはつぼみとしては断りようがない。
そして今日はその打ち合わせの日、なのだが。
「なんでこんなところにこんなものが……」
いつものテーブルの上には薔薇の館にそぐわない品々。弓とか矢とか手裏剣とか。あと柄の先が丸くなったナイフみたいなもの。よく分からないけど忍者映画に出てきたような気がする。
──忍者、といえば。
「犯人は、由乃さん?」
「犯人呼ばわりとは聞き捨てならないわね」
「ひっ!」
音もなく背後に現れたのは噂の張本人。そういうところが忍者みたいなんだってば。
「なんなのこれ?」
「くないよ、くない。石垣を登るとき、石の隙間にねじ込んで足がかりにするの。あと手裏剣代わりに投げることもあるわね」
なるほど。──って、そうじゃなくって。
「なんで武器なんか」
「もちろん今度のイベントで使うんじゃない。去年は惨々だったからね。今年こそ返り討ちにしてくれるわ」
田沼ちさとさんのことを言っているのだろうか、だとしたら確実に私怨が混じっていると思う。
「今年のカードの隠し場所は薔薇の館に限る、ってことになったでしょ」
「うん」
「普通にやったらすぐ見つかっちゃって面白くないじゃない。だからこういうものを用意しておいてお互いに戦ってもらおうと思って」
「えーっ!?」
「罠もたくさん仕掛けてあるのよ。中には洒落にならないのもあるから気をつけてね」
さすが由乃さん、用意周到──なのはいいけど、今から罠を仕掛けていたんじゃおちおち椅子にも座れないことにならないかな。
「遅れてごめんなさい」
そこに現れたのは志摩子さん。これで山百合会側の人間は全員揃ったことになる。去年と同じようにグランスールとプティスールは部外者扱いなのだ。
もっとも志摩子さんは去年やったのだから、順番で言えば今年は白薔薇のつぼみである乃梨子ちゃんにやってもらうところなのだが、強硬に断られてしまったのだそうだ。
でも志摩子さん、今年は確実に楽しんでいる。
「それでね、ギンナンを一番たくさん集めた人に副賞を差し上げようと思って」
「そのギンナンの手配は大丈夫?」
「今年の秋は豊作だったから」
確かに、あのころの志摩子さんは毎日顔がほころんでいた。
「そうだ、祐巳さん。チョコは用意した?」
「一応用意しているけど──」
去年のレシピを参考に今年もトリュフチョコを作ることになった。ただし、大量に。参加者はもれなく紅薔薇のつぼみお手製のトリュフチョコが食べられるという趣向になったのだ。作る方は大変だが。
「ちゃんと変な味のも混ぜておいてね。当たりはずれが大きい方が盛り上がるから」
「う、うん」
おいしく作ろうとしても作るたびに出来が違ってしまうので、その心配は無用だが口に出さないでおいた。
「あ、あとコートとリボンだけど」
「お姉さまが持ってきてくださるって」
と、いっても祥子さまのことだし、大きな袋を両手にぶら下げて持ってくるとは思えない。きっとあの黒塗りの車に積んでくるんだろうな。
「了解。で、コスモス文庫は令ちゃんに持ってきてもらう、と。──うん。これでだいぶ小道具は出そろったわね」
「あと数珠も」
「あ、そうだった。志摩子さんお願いね」
「数珠をこういうことに使うのはあまり気が進まないけど──」
「こんなもの、一体何に使うの?」
山口真美は由乃が持ってきた「当日用意するものリスト」を見て目を丸くした。つぼみたちは一体どういうつもりなのだろうか。
「まあ、こちらとしては面白くなれば何でもいいけれどね……」
真美はいつになく投げやりな言葉を漏らした。最近は側に三奈子さまがいないせいか、どんどん「適当」になっていく気がする。やはり近くに反面教師となる人間がいたほうが自分の身が引き締まるのだ。
それはともかく、こうしてバレンタインには、武器とギンナンとチョコとコートとリボンと文庫本と数珠が薔薇の館の中にちりばめられることになったのだった。
「……」
二月も中旬になったある日の始業前。
「紅いカードを見つけられますように……」
マリア像の前で両手を合わせる少女は思わずその祈りを口に出してしまっていた。
リリアン高等部で迎えた初めてのバレンタイン。
去年は大盛況だったという「宝探し」に今年は参加できるのだ。狙いはもちろん紅薔薇のつぼみ──福沢祐巳さまの紅いカード。それを勝ち取った者は祐巳さまとの半日デート券を手に入れられるという。リリアンかわら版も数日前から特集を組んでいて、学園内の雰囲気はいやがおうにも盛り上がっていた。
そして今日はその当日、なのだ。
あなたはリリアン女学園の1年生。
今年の「宝探し」イベントであこがれの紅薔薇のつぼみとの半日デート券を手に入れるために薔薇の館の地下25階以降に隠されているという紅いカードを探しだし、地上まで持ち帰るのがこのゲームの目的です。
さて、その実体は「メッセージ分離型ローグ」です。
「ローグ」というのは「トルネコの大冒険」や「風来のシレン」の元になったテキストベースのロールプレイングゲームです。アスキー文字のみで構成されたその画面はコンピュータがマイコンと呼ばれていた古き良き時代を生きた人たちの郷愁を誘います。
「メッセージ分離型ローグ」は、メッセージの部分だけ別のテキストファイルになっていて、ゲーム中に出てくるメッセージを容易に入れ替えることができるものです。
そのメッセージファイルをマリみて風に書き換えたのが「マリみてローグ」です。リリアンの生徒が数珠持って包丁振り回したりと、世界観ぶちこわしになってるかも知れませんが、そこはご愛敬、ということで。
メッセージファイルとは別に「メッセージ分離型ローグ」の本体が必要です。
Windows 版は Vector で配布されています。Linux 版は
Linux JG Project で RPM が配布されています。
いずれもフリーです。
上記のサイトからダウンロードしてインストールした rogue がきちんと起動することを確かめてください。
その後、インストールしたディレクトリ(フォルダ)にある mesg.msg を
このサイトで配布しているものと置き換えてください。
オリジナルの mesg.msg は mesg.org とかに名前を変えておくと良いでしょう。
これで「マリみてローグ」のインストールは終了です。
「ああ、あります。包丁もナイフもフォークも」目的のものを手に入れるためには、ときには武器を構えて戦うことも必要よ。 薔薇の館にはナイフやフォークのような食器の他にも由乃さまが用意した武器が たくさん置いてあるわ。でも包丁はちょっと物騒すぎますわね。
「えっ、いえ、滅相もございませんっ。私なんか、白薔薇さまの高そうなコートの足下にも及びませんっ」コートを着込めば相手の攻撃を防げるわ。 でも、レインコートの他は水に濡れてしまうとその効果が薄れてしまいますからお気をつけて。
「あなた、数珠も好きかしら?」数珠を掲げるとマリア様ならぬお釈迦様のご加護があなたを守ってくれるわ。 カトリックの学校で数珠を掲げるなんてちょっと不謹慎かも知れないけど、 本当に困ったときにしか使わなければマリア様もお許しになってくれるでしょう。
「あなたが気にするのなら、代わりにこれをいただいていい?」
薔薇の館にあるリボンは魔法のリボン。 髪に結べば勘が鋭くなったりおなかが空きにくくなったりするわ。 ツインテールの右と左とで変えるのも気分転換にいいわね。
「口が曲がるほどすごい味のはずれが混じっています。それでびっくり」
疲れたときには甘い物が一番。 薔薇の館にあるチョコレートは祐巳さまお手製の「びっくりチョコレート」。 何が起こるかは食べてみなくちゃわからなくてよ。
「コスモス文庫。平均的な女子高生である祐巳さんがご存じないとは、ちょっと意外だわ」
乙女のバイブル「コスモス文庫」は不思議な力を秘めてるわ。 でも表紙にイラストがないから、その効果は読んでみなければ分からないの。 お読みになるときは気をつけて! ボーイズラブかもしれなくてよ。
「これはお弁当です」おなかが空いたらお召し上がりになって。 もちろんお米は魚沼産のコシヒカリよ。
「うん。初心者らしくて、少々形は歪だったけど。 すごくおいしいマーブルケーキだった。あれ、どうして?」
ちょっとひとやすみにはマーブルケーキもいいですわね。お茶がないのが残念ですわ。 薔薇の館にある手作りのマーブルケーキは不格好かも知れませんけど味は佐藤聖さまのお墨付きよ。 でもどなたがお作りになったのかしら……?
初めての人にとってローグはなかなか取っつきにくいものです。 例えば以下のようなサイトを見ながら挑戦してみてください。